夏川検事が実際に笹川氏に出会ったのは国中がロッキード事件で大騒ぎになっていた最中でした。 東京地検は国際興業の小佐野賢治氏や児玉誉士夫氏との親交が知られていた笹川氏に関心を寄せていて、事情聴取のため夏川検事を別件捜査の名目で送り込んだ。 ところがどっこい笹川氏は想像以上の大物で、事件につながる供述は一切得られぬばかりか、逆にすっかり丸め込まれてしまったものでした。ただ、熱海の研究所の件では、夏川検事自身大変お世話になったこともあり、事情聴取などはすっかりそっちのけで、その話題で大いに盛り上がったものでした。 その後の捜査でも笹川氏がこの事件に関与していたということを裏付ける供述も証拠も得られなかったため、このルートの捜査は打ち切られました。
それから数十年の歳月が流れ、夏川検事は定年退官され、しばらくぶらぶらしてから退職金の一部を元手に趣味と実益を兼ねて居酒屋でも始めようかと考えておったが、熱海で出会った酵素風呂のことなどはほとんど忘れかけていたのでした。 そんなある日の夜遅く、酔って大いびきで寝込んでいた夏川氏宅の電話がけたたましく鳴ったのです。寝ぼけ眼をこすりながら電話に出ると「笹川じゃが・・」と電話の主。「笹川だと? 知らんな、いったいどこの笹川だってんだ!こんな夜更に突然失礼な・・・」と元検事。しかし、ハッと気がついて「ひょっとしてあの笹川先生では?」 「あのもこのもない。その笹川じゃ。」 「突然私にいったいどんな御用なんで?」 「実はな、あんたもよく知ってる例の酵素風呂なんじゃがね、わしも年でな、ぼちぼち引退しようかと考えておるんじゃ。今の情勢では、船舶振興会は運輸省の管轄になることは避けられないし、わしもそのほうがよいと思っている。 しかし酵素風呂はどうしても後世に残したいので、誰かに引き継いでもらいたいのだが、あんたが候補に挙がったというわけだ。どうだ、やってくれるか?」 商売人の笹川氏のこと、まさかただでくれることはなかろうと思ったが,念のため「ただでいただけるんでしょか?」と元検事。 「馬鹿を言うな。 いったいその開発にいくらかかっているのか知らんじゃろうが、はっきり言って安くはない。しかし、あんたには払える。そんなことはとっくに調べてあるんじゃ。実家の山を売ればそれくらいの金額になる。」
そんな具合で昔と同じようにまたもやすっかり丸め込まれてしまった元検事は、結局父親名義の山林を勝手に売り払ってしまって、その金で笹川先生から酵素風呂とそれに関わる研究成果とノウハウの一式を買い取って、その仕事を始めたのでした。
vol.8に続く
それから数十年の歳月が流れ、夏川検事は定年退官され、しばらくぶらぶらしてから退職金の一部を元手に趣味と実益を兼ねて居酒屋でも始めようかと考えておったが、熱海で出会った酵素風呂のことなどはほとんど忘れかけていたのでした。 そんなある日の夜遅く、酔って大いびきで寝込んでいた夏川氏宅の電話がけたたましく鳴ったのです。寝ぼけ眼をこすりながら電話に出ると「笹川じゃが・・」と電話の主。「笹川だと? 知らんな、いったいどこの笹川だってんだ!こんな夜更に突然失礼な・・・」と元検事。しかし、ハッと気がついて「ひょっとしてあの笹川先生では?」 「あのもこのもない。その笹川じゃ。」 「突然私にいったいどんな御用なんで?」 「実はな、あんたもよく知ってる例の酵素風呂なんじゃがね、わしも年でな、ぼちぼち引退しようかと考えておるんじゃ。今の情勢では、船舶振興会は運輸省の管轄になることは避けられないし、わしもそのほうがよいと思っている。 しかし酵素風呂はどうしても後世に残したいので、誰かに引き継いでもらいたいのだが、あんたが候補に挙がったというわけだ。どうだ、やってくれるか?」 商売人の笹川氏のこと、まさかただでくれることはなかろうと思ったが,念のため「ただでいただけるんでしょか?」と元検事。 「馬鹿を言うな。 いったいその開発にいくらかかっているのか知らんじゃろうが、はっきり言って安くはない。しかし、あんたには払える。そんなことはとっくに調べてあるんじゃ。実家の山を売ればそれくらいの金額になる。」
そんな具合で昔と同じようにまたもやすっかり丸め込まれてしまった元検事は、結局父親名義の山林を勝手に売り払ってしまって、その金で笹川先生から酵素風呂とそれに関わる研究成果とノウハウの一式を買い取って、その仕事を始めたのでした。
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