がん細胞はDNAの変異によって発生しますが、その変異は内的要因と外的要因としての主に二つの要因によって発生するものと考えられます。

内的要因としては遺伝的要因と確率的遺伝子DNAの転写ミスが考えられ、どちらも不可避的でありますが、遺伝的要因については自然淘汰されますので、どちらかというと稀であると言えるでしょう。 外的要因としては、放射線、紫外線、電磁波、毒物、ウイルスなどによるDNAに対する直接的な破壊損傷があります。 外的要因である以上かなりの程度は防御が可能と言えます。 これに対して、内的要因としてのDNAの転写ミスは生物発生のメカニズムと確率に関係している本来的な問題ですから避けることはできません。 この点は実は非常に重要な点ですので、少し詳しく考察してみたいと思います。 

細胞分裂に際してはあらかじめDNAの転写が行われますが、この一連の転写のプロセスはとてつもなく複雑で緻密な作業です。 人間はおよそ60兆個から100兆個の細胞の集合体といわれています。 以降の話を単純化するために、ここでは仮に100兆個とします。 脳神経以外の体細胞の分裂周期は平均でおよそ90日と推測されています。 脳神経が全細胞の10パーセントと仮定すると90兆個の細胞が90日で全部入れ替わることになりますから、毎日1兆個の細胞分裂、つまり、毎日1兆回のDNA転写があることになります。 複雑極まりないDNA転写の作業の過程では、どうしても一定の確率で発生するミスを避けることはできません。 これは最新のスーパーコンピュータでも同じことです。 しかし、生命のメカニズムは人間のテクノロジーが作り出した機械などよりも、そのミスの確率ははるかに低い上、自動修復システムも備わっています。 修復不能な転写ミスの確率を一千万分の一と仮定しますと、毎日10万回の転写ミスが発生し、10万個の異常DNAが発生し、10万個の出来そこないの細胞が発生するわけです。これら出来そこないの細胞の大半は生き続けることができませんから自滅(アポトーシス)しますが、その一部は生き残って、中には辺り構わず異常増殖するものも出てきます。 これが癌細胞でこの数は1日に数千個程度と見積もられています。 

このように癌細胞の発生は多細胞生物の発生そして成長と維持の過程における必然ですからどんな手段を講じても避けることはできません。 これでは人間は全員癌で死んでしまいかねませんが、実際にはそうなっていません。 何故なら、生物にあっては、この転写ミスはもともと想定内のことであって、問題を未然に防ぐシステムが最初から備わっているからです。 そのシステムとは免疫システムです。 生物にもともと備わっている免疫システムは極めて多種多様で複雑ですが、癌細胞に対処する免疫システムの主役は通常白血球の30パーセント前後を占めるリンパ球です。 男性の場合、白血球の総数は血液1立方ミリメートルあたり6000個前後で、リンパ球は通常その30%ですから、血液1立方ミリメートルあたり1800個ということになります。 リンパ球は全身をくまなくパトロールしていて、癌細胞を発見すると直ちに攻撃し破壊します。 このように、日々数千個の癌細胞が発生しても何ら差し支えない仕組みになっているわけです。 ただし、何らかの事情で癌細胞の発生数が異常に多かったり、リンパ球の数が異常に少ないか、活力が低下していたり、あるいは最悪その全部が同時に起きていたりすると、発生した癌細胞をすべて処分することができなくなって生き残るものが出てきます。 生き残った癌細胞は次第に数を増やして癌組織として成長を続け、直径5ミリ以上になるとCTなどの検査機器によって発見が可能となります。 直径1ミリの癌はおよそ百万個の癌細胞の塊ですから、直径5ミリでは癌細胞の数はおよそ百万×5の三乗個となっています。 一センチでは百万×10の三乗個となります。 癌細胞の増殖は二次関数のグラフにみられるような幾何級数的なものですから、最初の内はゆっくりでも、次第にスピードを上げて行き、成長するにつれて癌細胞の数は爆発的に多くなってくるので少数でそれに戦いを挑むリンパ球は大忙しになってきます。 癌細胞の増殖速度がリンパ球が癌細胞を殺す速度を上回れば当然ながら癌組織は拡大し、それが逆転すれば、癌は収縮することになります。 また癌細胞の一部は血管に侵入し、全身いたるところに流れて行き他の組織や臓器に入り込み、まるで植民地のようにその新天地で増殖を始めるのです。 これは遠隔転移と呼ばれているもので、大元の組織(原発巣という)が拡大するにつれてそのリスクは大きくなっていきますが、原発巣が数ミリというように微細であっても白血球の総数が低下しているなど体全体の免疫の状態が悪化しているとこのような事態は十分起こりえるものですからたとえ初期の段階であっても安心はできません。
また、遠隔転移は無論一か所にとどまるとは限らず、免疫状態が低下していると多臓器や皮下組織に複数転移する可能性が高くなります。 たとえ一か所でも転移が見つかった場合、現代医学では進行癌と称して最早手遅れで治癒は不可能という判断になり、余命宣告が出されたりします。
さてここで、先ほどのこの部分に注目いただきたいのですが、「何らかの事情で癌細胞の発生数が異常に多かったり、リンパ球の数が異常に少ないか、活力が低下していたり、あるいは最悪その全部が同時に起きていたりすると、発生した癌細胞をすべて処分することができなくなって生き残るものが出てきます。」
冒頭の「何らかの事情」という部分が問題です。 つまりこの「何らかの事情」が存在しなければ癌という病には至らないことになります。
細胞分裂の頻度が高まれば当然ながらDNA転写ミスの頻度が増大し、癌細胞の発生も増えます。 組織が傷害されたり酷使されると、組織にダメージが生じます。 生命体は本能的に必ずダメージを修復しようとしますから活発に細胞分裂を繰り返し細胞の数を増やします。 よって、DNAの転写頻度が高まり癌細胞の発生頻度も高まるのです。

体内にはもともとその働きの性格上細胞分裂の頻度が他より高い組織が主に二つあります。 一つは上皮粘膜組織で、もう一つは腺組織です。 上皮粘膜組織は、外気や体外から取り込んだ飲料や食物に直接接する部位で、具体的には気管から肺胞に至る気道経路の内側や口腔から食道、胃腸を通じ直腸に至る消化管の内側を覆っています。 腺組織は、消化液を生産する外分泌器官、具体的には、胃、膵臓など、そして甲状腺、卵巣、副腎などのホルモンを生産する内分泌器官に分布しています。 粘膜組織は、熱、アルコール、煙、化学物質などの有害刺激、腐敗物からの有毒ガスなどに絶えず曝されていますから恒常的に傷害されており、その修復の必要性から細胞分裂の頻度が高いですし、腺組織も消化液やホルモンの生産に忙しいので、暴飲暴食といった食生活の乱れや精神的ストレスなどによって常に負担が重く、ダメージを受けやすいため細胞分裂の頻度が高まります。 二つ目の事情は、放射線や電磁波によってDNAの転写プロセス自体が影響を受けてミスコピーが増えるということも十分考えられます。 何らかの事情の三つ目は、リンパ球の数が減少しているか、あるいは数はあっても十分に働くことができない、もしくはその両方が同時に起こっている場合、すなわち、免疫システムが機能低下を起こしているという事情です。 (これは免疫不全のひとつと言えますが、別項で説明するとおり、これは癌だけではなく、あらゆる慢性病の根本原因になっていると推定されます。) そのため、発生した癌細胞をすべて退治することが出来ない状態に陥っていて癌細胞の増殖を許してしまうことになります。