病気に正しく対処するために一番大切なことは、そもそも病気とは一体何かということを正しく理解しておくことではないかと思います。

微生物から人間まで、ありとあらゆる生命体には自らの命を守ろうとする自己保存本能と自分の属する種全体を守ろうとする種族保存の本能があります。この本能は、それなくしてはその生命自体が存在しえないのですから、本来非常に強力で生命体にとって最も根源的なものです。自己保存本能は、食欲に代表されるところの環境からエネルギーを摂取する営み、そして、暑さ寒さといった不快な環境から逃れ、有害菌や肉食動物のような外敵に対処したり、あるいは、自己の内側に侵入したウイルスや微生物、あるいは内部に発生した反乱分子(がん細胞)のような自己の生存を脅かしかねない脅威に対処する巧妙なメカニズムとして発現しています。種族保存の本能は、自己保存本能の延長であると考えられますが、性的欲求と衝動から始まって、家族愛、自分の所属するグループに対する忠誠心や広く人類愛にまで拡大しうるものです。

人間の場合自己保存本能のメカニズムのすべてをコントロールしているのが、脳を中枢とする神経システムです。 感覚神経、運動神経、そして自律神経の全てがその目的のために動員されるわけですが、その内、全自動生命維持装置ともいえる自律神経については自分の意思とは無関係に覚醒中も睡眠中も24時間休みなく文字通り自律的に活動しています。自律神経は交感神経と副交感神経の2系統で成り立っていて、両者はアクセルとブレーキの様に相反する働きを担っていてバランスを保っています。簡単に言うと、交感神経は緊張を、逆に副交感神経は弛緩を促進するのです。夜行性の動物とは違って、人間の場合は、何百万年もの間、太陽が昇って明るいうちに餌獲り行動(狩猟即ちエネルギー摂取行動)をし、日が暮れると食事をして休息するという生活のリズムを繰り返してきました。その当時は大した武器もなく、猛獣や他部族の攻撃など日中草原での餌獲り行動は常に生命の危険を伴いましたから、体は交感神経を優位にして攻撃や逃避のための俊敏な行動に備えたり、怪我による出血や感染を最小限にする必要があります。そのためには、心臓と肺周辺そして全身の筋肉の血管を拡張させ、拍動と呼吸を増やすと同時に血糖値と血圧を上昇させ激しい動作に備え、さらに皮下の血管を収縮させて血流を止めることによって万一負傷した場合の出血を最小限に抑え、同時に白血球、特に顆粒球を増やして菌の侵入に備えることになります。これは緊急隣戦体制ともいうべきもので、この状態が長く続くと体は疲弊しますから、陽が暮れて、狩猟を終え住みかに帰り、食事の時刻になると、交感神経は沈静し今度は副交感神経が優位になり、消化吸収のため消化器系統が働くようになり、末端の血管は拡張し、脈拍と血圧は落ち着き、全身的にリラックスし睡眠に入りやすくなります。そして翌朝陽が昇ると、再び、日中の行動に備えて交感神経が優位になり始めるわけです。長い人類進化の過程でこの自律神経のリズムが定着したのですが、文明の進歩によってこのリズムが崩れてきているところからも様々な問題が生じてきています。

自律神経と免疫
近年の研究によって、自律神経と免疫が密接に関わっていることが明らかになってきました。今みてきたように、免疫の実戦部隊ともいうべき白血球が自律神経と連動してその数が増減し、同時に、その内容が変化するのが実験で確認されています。 つまり、白血球は自律神経にコントロールされ、自律神経は脳にコントロールされているというわけです。これは、免疫システムは究極的には脳、すなわち、心の支配を受けていることを意味します。先人たちは昔から「病は気から」などと言って経験的にこのことを知っていましたが、唯物主義的西洋医学にあっては、この点は無視され続けてきました。 近年に至り、精神神経免疫学としてやっとクローズアップされるようになってきました。

Part2につづく